嗤う伊右衛門 (角川文庫) 京極 夏彦 9784043620012

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 ミステリー作家京極夏彦が、斬新な解釈を施して現代に蘇らせた「四谷怪談」。4世鶴屋南北の最高傑作とされる『東海道四谷怪談』とは趣の異なる、凛とした岩の姿が強く心に残る作品である。直助やお袖、宅悦や喜兵衛、お梅といった南北版の登場人物に、自身の著作『巷説百物語』の主人公又市をからませながら、伊右衛門とお岩が繰り広げる凄惨な怪談話を、悲恋の物語へと昇華させている。第25回泉鏡花文学賞受賞作品。
   小股潜りの又市は、足力按摩の宅悦に、民谷又左衛門の娘、岩の仲人口を頼まれる。娘を手ごめにされた薬種問屋の依頼を受け、御先手組与力の伊東喜兵衛に直談判した際、窮地に立たされた又市らを救ったのが又左衛門だった。不慮の事故で隠居を余儀なくされた又左衛門は、家名断絶の危機にあるというのだ。しかし、疱瘡(ほうそう)を患う岩の顔は崩れ、髪も抜け落ち、腰も曲がるほど醜くなっていた。又市は、喜兵衛の1件で助っ人を頼んだ浪人、境野伊右衛門を民谷家の婿に斡旋するが…。
   岩を裏切る極悪人である南北版の伊右衛門を、著者は大胆にも、運命に翻弄される不器用で実直な侍として描く。また、幽霊や怪異を持ち出すことなく、人間の心のおぞましさを際立たせることよって、最大の恐怖を生み出しているのも大きく異なる点だ。首を吊った妹の仇を討つ直助の慟哭、喜兵衛に犯されたお梅の悲劇、悪逆非道な喜兵衛の卑劣さ、「伊右衛門様は何故幸せにならぬ」と叫びながら鬼女と化す岩の狂気。彼らの情念のおどろおどろしさを重層的に、丹念に描写することによって、著者は奥行きの深い、きわめて現代的な怪談を作りあげている。(中島正敏)   
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